Yasuto
Nakahara
________Chef

MOON WARS エピソード2

マダムは無類の豚好きである。僕はよくメニューが決まらない時、いつもマダムに何が食べたいか聞く。すると必ず「豚」が食べたいと言う。もち豚、アグー豚、白金豚、イベリコ豚、美星黒豚... いろいろ使ってきた。もう使う豚がないのだ。

考えるのが嫌になると僕は必ず掃除を始める。今回は本棚を整理しようと思い、雑誌の山を片付けているとある記事が目についた。

「ついに日本上陸、ハンガリーの国宝、マンガリッツァ」何という偶然、「溺れる者はわらをもすがる」と言うがこれは「困ったシェフは豚にすがる」である。そんなわけで、今回秋のワイン会夜の部(お一人様 8,000円税込)のスペシャル素材はマンガリッツァ豚に決定した。

スペインのイベリコ豚と同じルーツを持つこの豚は、現在ハンガリーにしかいない。一時は絶滅寸前でハンガリーの特権階級の人でしか口にできない貴重な豚であった。そんな状況をなんとか打破しようとハンガリー政府はマンガリッツァを国家遺産に認定、少しずつ生産数を増やすことに成功し国内外の高級レストランでグルメな人たちの舌を唸らせている。

「ウーリーピッグ(毛で覆われた豚)」という異名をもつマンガリッツァは、牧草地や森林で放牧されカボチャやドングリなど自然の餌だけ食べ、ストレスを感じることなくのびのび飼育されている。冬にはマイナス30度にもなるという厳しい環境にさらされるため体内には良質の脂肪分を多く蓄えている。つまり、マンガリッツァ最大の特徴は神戸牛を彷彿させる霜降りの多さ、脂肪分が多い肉質だが融点が他の豚肉より低いため口の中でトロリととけ胃にもたれないのだ。

僕は常々豚の旨味は脂だと思っているし、ひょっとしてマダム業界の「岸 朝子」と呼ばれているうちのマダムの口も唸らせてくれるかもしれない。もちろん使う部位は肩ロース、厚めにスライスし、きつめにグリルしたい。

そして、こんな繊細で力強い豚に「酒工房あおえ」のミカさんがどんなワインをセレクトしてくれるか楽しみだ。いつも僕のわがままにつき合ってくれ、素晴らしいワインをセレクトしてくれるミカさんに感謝し、最後にマダムセレクトのチーズにも期待しエピソード2は終わっておこう。

次回はいよいよ三部作、ついに完結。お楽しみに!

メドゥーサの逆襲

メドゥーサの逆襲

遠い昔、銀河系のはるか彼方で...

圧倒的な力で高飛車に攻めてくるメドゥーサ軍に防戦一方の「 M の月」シェフ率いる反乱軍は、メドゥーサの鏡作戦を考案し、事態は好転したかに思えた。
しかし、こともあろうかマダムがシェフを裏切り(愛想を尽かし)メドゥーサ軍に寝返ってしまったのである。またもや窮地に立たされたシェフは...

<9月26日(日)秋のワイン会>
昼の部|11:30 〜 13:00
お一人様 3,000円(税込)
立食形式、オードブル、ジゴ(骨付き仔羊もも肉)ロースト

夜の部|17:30 〜 20:30
お一人様 8,000円(税込)
着席、マンガリッツァ豚を使ったコース料理