Yasuto
Nakahara
________Chef

言葉遺産4「かゆいとこないですか?」

実は私、今誰にも言えない大きな悩みを抱えています。私のこの不毛で地獄のような日々のなかで唯一の楽しみは、月一回ビッグプッチンプリンを食べることと同じく月一回散髪に行くことです。

私の理想とする散髪屋さんの条件は3つあります。まず一つ目は近いこと、ちょっと休憩中に歩いていけ、あんまりお客さんがいない所がいいです。

二つ目は、店員が話しかけてこない所がいいです。店に入って「今日はどんな感じにしますか?」と聞かれ「あ、いつもので」と言って、それから帰るまで一言も喋らないぐらいがいいです。

つまり、私は散髪中ずっと寝ているのです。あの半分起きているようで寝ているような感覚が好きで、変に話しかけられると寝るのに集中できないのです。

三つ目は、顔剃りが上手なお店がいいです。女性の方はわからないと思いますが、ウトウトしている時、あの熱い蒸しタオルを口元にかけられ、顔を剃られる瞬間が一番の至福の時だと思います。

で、いつも帰るとき「終わりましたよ、今日もお疲れですね」と言われ、よほど熟睡していたのだろうか、できることならもう30分ほど寝かしておいて欲しいと思うのですが...

前置きが長くなりましたが、私の悩みというのは散髪中、頭を洗う時いつも「かゆいとこないですか?」と聞かれるのですが、この質問に対してどう答えたらいいのかわかりません。

そこで今日は、この「かゆいとこないですか?」のベストな答えをみなさんと検証していきましょう。多分たいていの人は「特にないです」とか「大丈夫です」と答えると思うのですが、的確に頭のかゆいところを口で、しかも洗髪中に表現できる人は少ないと思います。事実、私もそんな人を見たことないです。或いは、もう面倒臭いのでかゆくても我慢している人も多いと思います。

例えば、年のせいか背中がかゆくなるので頭以外のとこでもOKなのだろうかとか、この言葉は実は社交辞令みたいなもので、店員さんもまさかかゆいところを言われるとは思っていないのではないかとか、気が小さい私は店に入ってから帰るまで、この質問にどう答えようかと悩み、気が休まりません。

いつも今日は思い切って「頭のてっぺん」とか「耳の後ろ」とか言おうと待ち構えているのですが、いざその時が来ると「あ、大丈夫です」と言ってしまう気弱な自分に嫌気が差し、落ち込んで帰ってきます。

そんなことならいっそのこと「かゆいとこないですか?」を聞いてもらわないほうがよっぽどマシです。でも、店側からするとそういうわけにもいかないので、そこで提案ですが、スーパーでレジ袋がいらない人は「NOレジ袋カード」みたいなものをカゴに入れておけば、レジ袋をくれないのと同じように「NOかゆいとこないですか?」Tシャツをつくり、それを着ていけば暗黙の了解で誰も傷つくことなく、私は熟睡できるわけです。

もしこのブログを見た理容室のスタッフ、あるいは私は過去にちゃんとかゆいところを的確に言ったことがある人はぜひ感想をお寄せ下さい。

それでは、気弱で優柔不断なMの月シェフを長年に渡り悩ませ続けてきた「かゆいとこないですか?」を4月度の言葉遺産として登録しておきます。